〝さいたま市と国連〟教育について。細田さいたま市教育長と尾池ユネスコ代表部日本大使の対談①
2022年8月5日(金)16:00~17:16
さいたま市役所教育委員会
対談者: 細田眞由美さいたま市教育長(以下「細田」という。)
尾池厚之ユネスコ代表部日本大使(以下、「尾池」という。)
吉田浩司(以下「吉田」という。)
SDGs未来都市であるさいたま市教育委員会の細田眞由美教育長と、国連の教育機関であるユネスコ代表部日本大使である尾池大使氏との対談
吉田:お二人の共通の話題であります「教育」について。さいたま市と国連ということで、さいたま市教育委員会で面白い企画をやられたとのことですが、その辺について、細田教育長からまずお話いただけますでしょうか。
(写真上 右から 尾池厚之ユネスコ代表部日本大使、細田眞由美さいたま市教育長、吉田浩司氏 )
細田:前国連大使で大阪大学大学院教授の星野俊也先生に、現在、さいたま市の、グローバルアドバイザーをやっていただいております。
何故、グローバルアドバイザーにご就任していただけたかと申しますと、本市の清水勇人市長が、学生時代に模擬国連を日本に取り入れようとのことで、活動しておりました。
また、星野先生も同じようなお考えをお持ちであり、意気投合し活動していたとのことです。それで、時が経ち、清水勇人の方はさいたま市長になり、そして星野先生は国連大使になられた。
竹馬の友であるおふたりが、4年前にニューヨークで再会した際、市長が、「ぜひさいたま市のグローバルアドバイザーになっていただきたい」とご依頼し、二つ返事で星野先生がグローバルアドバイザーになって下さったという経緯です。
そして、市長が、私に教育委員会でも星野先生にご指導いただいたらどうかというお話しがあり、私もずっとやりたかった、模擬国連もやりましょうっていうことになり、4年前から準備していたんです。しかし、その後コロナ禍で実現できない時期が続きましたが、やっと今年1回目がやれたのです。
尾池:そうなんですか、どうでしたか?
細田:星野先生から、国連の役割や世界情勢について、また、国連総会のルールなど学ばせていただきました。そして8月2日から4日までが、私たちの模擬国連でした。
昨日(8/4)は我々の国連総会だったので、その時は星野先生が今度リアルでおいでになっていただいて、本当に素晴らしかったです。そして、本日、尾池大使とお目にかかれたので、国連づいてますよね。
尾池:なるほど、確かに。
細田:私たちの模擬国連の国連総会のテーマは、フードセキュリティサミットで、それをまとめたのが、このFood Security Summitのペーパーなんですけれども、本格的に国連のルールに則ってやりました。本当に面白かったです。
尾池:そうですか子供たちは、何歳ぐらいの子たちだったのでしょうか?
細田:高1高2ですね。オーディエンスは中学生が来まして、本当に国連のように、会場を設定しました。
尾池:なるほどね。ずいぶん本格的にいろいろやられたのですね。
細田:はい。生徒たちはとても頑張りました。星野先生からも「1回目としては、上出来じゃないか」とお褒めの言葉をいただきました。そして、ひとつとても感心したことがありました。
ロシアとウクライナの問題が表出している中、ロシアの代表役の割り当てになった生徒が、ロシアのことをWebでリサーチする時に、日本語でリサーチするのを止めようと思ったそうなんです。
日本語でリサーチすれば、当然、それらの論文全体が、日本人のフィルターを通した内容になるだろうと。だから、僕たちは英語でリサーチすることにしましたと言っていました。
英語は、リンガブランカ(共通語)なので、いろいろな使い手の人たちが、いろんな目線で、分析しているから、英語でリサーチするのが良いということでした。
一方、ウクライナの代表になった子供たちは、今こんな状況だけれども、でも、我々が果たすべき農業国としての役割は、大きいと思うので、今こそ我々の存在感を示すときだなんて言ったんです。
高校1年生2年生ですけど、グローバルな視野で考えて、非常に活発でした。しかも英語でした。
尾池:なるほど。英語は大丈夫でしたか?
細田:はい、おかげさまで問題ありませんでした。自慢しちゃいますけど、さいたま市は英語教育日本一です。全国学力学習状況調査とか、英語の学力実態調査で、3回連続日本一(*)なのです。
尾池:すばらしい。それでは、問題ないですね。
細田:模擬国連については、また来年やります。
吉田:模擬国連に関して、現代のようなに色々な問題が複雑に絡み合って、それぞれの国において中間点を求めるのが難しい時代。
しかも利権がからんで、自国の利益に固執する時代において、世界が共通して取り組んでいける課題はあるのでしょうか。尾池大使は、実際の外交現場からどう感じられていますか。
尾池:こういう時代になってしまって、国連の議論の中で生き残る部分はどこかになるのかと。つまり、いろいろ事案があるわけですけど、その中でこれからも続けてやっていって、それをみんなが支持する分野はどこかと考えると、一番多分支持を集めるのは、気候変動なのですね。これだけは確実に続いていくと思います。
細田:ああ、なるほどそうですね。
尾池:なぜこれが続くかっていうと、非常に問題が明確なんです。何が原因で、誰にとっても、こうこういうことが起こるって比較的明快だし、その数字も明快だし、どこがたくさんCO2を出しているかも明快だし、わかりやすいのですよ。
今、気候と直接絡んでいる災害っていうのも、もうご案内のように、日本のこの雨もそうですけど、やっぱり段々と激しい状況になっていて、みんな困っている。その損失もすごい。
アフリカでは、もっとさらにすごい。やっぱり干ばつですよね。雨が降らないと、さらに降らなくなるので、それで問題が明確な中、(気候変動の問題が)続いていくだろうと。
この交渉のコアは、今地球上にあるCO2は、ほとんどが先進国を出したものじゃないかと。かつ長いことそうでしたよね。だから、その先進国が責任持てという話をずっとやってきたんですけど、最近、状況が変わっていて、今、中国が世界最大ですけど、インドとかブラジルとか、ロシアも意外に多いですけど、こういう国々が結構排出しているんです。
なので、彼らはどうするのだと彼らが何をしなければ、やっぱり世の中は変わらないし、温暖化が進んでいっちゃう。先進国はもはや先進国も全体の3割とかいう時代になってくると、先進国がいくら頑張っても、途上国が何もやらないわけにはいかない。
細田:途上国の言い分だと、これまでCO2を出し続けて発展した先進国に対して、これから途上国が追いつくため、ある程度出すのは仕方ないだろうみたいな議論ですね。
尾池:そういう議論が、実はかなりの間で通用していて、京都議定書っていうのは、そういう考え方で先進国だけに義務を課していたのです。その後、パリ協定になって、それがやめになった。
ただ、あの時、アメリカの議会の都合がとても関係していて、要するに中国がちゃんとやらないなら、アメリカはやる必要はない。
だから中国もアメリカも同じ基準にもとづいて、そうやんなきゃいけないっていうことになった。それでアメリカも中国も、とにかく自主的にこうしますという約束をすると、それを検証する必要が出てくる。
その検証するってところが実はパリ協定において、すごく重要で、監督してちゃんとやっているかどうか確認するってことですよね。
それはアメリカも中国もちゃんとやるということになって、それをアメリカ国内で説明するときには、中国もアメリカも同じ土俵でやっているんですということが重要なのです。
中国にしてみれば、やっぱり先進国と途上国とは、そりゃ違うよねと。せめぎ合いの中の妥協の産物として出てきたのが、パリ協定なのです。
やっぱりそうすると、あれを全部みんなが守っても、実は気温は、そんなに下がらないかもしれないと疑心暗鬼になる。それは妥協の産物だからそう感じてします。
しかし、じゃあ何もできなくてよかったのかということになる。私は、この協定交渉に携わったので、何もできないよりは、できた方がいいのは間違いないんですけど、これで十分なのかと言われると、難しいです。
なんですが、あの時は全世界が、できるだけの努力をしたのです。この部分は気候変動に基づく災害が、広がれば広がるほど、引き続き何とかしなきゃいけないと。
これには、ロシアもウクライナもないのですしね、この世界には。だから気候変動に関する交渉は続いていくと思う。
細田:サステナブルになって、そこはもうその象徴ですからね。
尾池:そうですね。
細田:地球が、持続可能でなければ、我々元も子もないわけですから。
尾池:もし可能なら、来年予定されている2回目の模擬国連の議案として、「気候変動」を検討して頂くと面白いかもしれません。
細田:確かにそうですね。ありがとうございます。
(*)については、2022年9月28日朝日新聞夕刊7面「英語ならさいたまWhy?」の記事の内容を、朝日新聞に了承後、記載。
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